命どぅ宝
戦世も済まち 弥勒世もやがて
嘆くなよ臣下 命ど宝
『首里城明渡し』
戦乱の世は終わり、太平の世がやがて来る。
嘆くではない諸君、命こそ宝だ。
嘆くではない諸君、命こそ宝だ。
「命ど宝」という言葉は、戦後沖縄では、戦争がなく命が大切にされる平和な世の中こそが大事であるといったメッセージを込めて広く用いられます。もともと同様の表現はあったかもしれませんが、かつて盛んだった演劇の台詞から広まったとされています。
『首里城明渡し』という芝居における明治維新期の廃琉置県の場面で、琉球王国最後の王である尚泰王がその臣下に詠んだ琉歌(という設定)ですが、実際の作者は王を演じた俳優の伊良波尹吉だという説があります。劇中の言い回しは観客との掛け合いの中で多少変化があったようで、初句を「戦世ン終ワティ」と詠むなど、いくつかのバリエーションが伝えられています。
なお、「命どぅ宝」という言葉にこめられた意味合いをより深く知りたい場合は、阿波根昌鴻『命こそ宝』といった著作がお薦めです。
言葉
- 済マチ:済ませて[接続(ティ)形:済む si=mun, =man ≫済ます sima=s(h)un, =san, =chan >simachi].
- ドゥ:古日本語の係助詞「ぞ」に相当する強意の助詞で、連体形や体言(名詞)で結ぶ。
- 弥勒世:元は〈豊年〉の意で、転じて太平の世を表す。
- 嘆チュナ:嘆くな[禁止:naji=chun >najichuna]
- 臣下:〈手下〉の他に〈身内〉や〈仲間〉といった意味合いもあり、二人称的に用いられる。